「人工社会 −複雑系とマルチエージェント・シミュレーション−」

出版記念セミナーの議事録

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【発表者と公演内容】

11:00 〜 11:40

 東京大学,山影 進 教授

 1949年生まれ。 72年東京大学教養学部卒業。74年同大学院修士課程終了(国際学修士)。74〜76年と81〜82年、米国マサチューセッツ工科大学大学院に留学し、82年に Ph.D を授与される。職歴は、76年に京都大学東南アジア研究センター助手に採用され、80年東京大学教養学部助教授となり、91年より教養学部教授。96年より大学院総合文化研究科教授。この間、マラヤ大学、ハーヴァード大学の客員研究員を歴任。専攻は、国際関係理論と現代東南アジア国際関係。

Photo of Mr.Yamakage

<著編書>

 『国際関係における地域主義』(共著、1982 有信堂)

 『国際関係理論の新展開』(共編著、1984 東京大学出版会)

 『相互依存時代の国際摩擦』(編著、1988 東京大学出版会)

 『アジアにおける国民統合』(共著、1988 東京大学出版会)

 『ASEAN シンボルからシステムへ』(単著、1991 東京大学出版会)

 The Challenge of Japan Before World War II and After(共著、1992 Routledge 、『対立と共存の国際理論』(単著、1994 東京大学出版会)

 『新国際秩序の構想』(編著、1994 南窓社)

 『国際関係研究入門』(共編著、1996 東京大学出版会)

 『ASEANパワー アジア太平洋の中核へ』(単著、1997 東京大学出版会)

 『ASEAN資料集成 1967-1996』(編著、1999、日本国際問題研究所)。

Topic: 「研究教育用シミュレータのニーズとABSの可能性」

 社会科学の第三の方法として、マルチエージェント・シミュレーションの可能性が注目されている。しかし、その真価はまだあきらかではない。なぜなら、その教育上の効果も研究上の有用性も十分に示されていないからである。そして、その原因のひとつは、肝腎のシミュレータがなかったからである。構造計画研究所と共同で開発しているABSは、新しいタイプのシミュレータとして、社会科学の研究教育の改革(革命)を引き起こすかもしれない。そのような可能性がもしあるならば、それを引き出すかどうかは、どのようにABSを使うのか、どのようにABSを改良するのかにかかっている。この報告は、ユーザーの立場から開発に関わった者の視点から、ABSを使った事例を紹介することで、ABSの可能性について参加者の皆さんと議論することをめざしている。おそらく、社会科学という狭い領域を越えて、ABSの利用範囲が広がっていくにちがいない。

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【議事録】

 

【山影】

……でシミュレーションを使える。分野によっては、シミュレーションの結果で、研究論文、学術論文が書けるというのが、若干問題視されているところもありますけれども、徐々に認知といいますか、シミュレーションの研究成果の位置づけがだんだん認められるようになっているわけです。

 マルチエージェント・シミュレーションというのは、シミュレーションから見ても、第三世代といいますか、最初は数値実験、耐震構造でありますとか……、そんなことを練っている。そのうちに、僕が大学院生のころは、計量経済のモデル構造方程式をつくる、パラメータを推定して、それをしようとして初期値を入れたら、社会はどうなるんだというようなシミュレーションがございました。

 いずれにしても、こういったものは、つくっている本人が非常にモデルを強く制約して実験してきた。それに対して、このマルチエージェント型シミュレーションというのは、非常に緩いシミュレーションでして、我々が見ている現実、大局的な構造というのは、もともとつくられているのですけれども、なかなか観察者には見えてこない。それが創発性であるとかエマージェンシーと言われている現象になるわけです。そういったことを、エプスタインさんの『人工社会』の中で、トップダウンからボトムアップの方法だというふうに書かれています。

 もともと冒頭の報告は、ABSに対するニーズはどんなものがあるのだろうかということなのですが、正直言って、多分あまりないだろう。しかし、本当はあるに違いない。つまり、現在潜在的なニーズがあるのだけれども、僕らがそれをきちんと自覚するまでにはなかなか至っていない。そういう潜在的なニーズ、言いかえればシーズ(種)がどういうふうに転がっているのか。

 1つは、行為主体、その表現方法が変わってきて、最初の報告で服部さんが、エージェントというのは主体なんだ、代理人ではないということを強調しましたけれども、例えば、国際関係の主体、国家ですけれども、50年代、60年代は、ユニットということであらわしているのですね。そうすると、国際政治というのは、ビリヤードボールモデルという形で、固まり同士がぶつかり合うという認識がとられています。そのうちに、ナショナリティ、合理性が正面から議論されるようになると、ナショナル・アクターという形で議論される。最近はエージェントという言葉で使われているわけです。その主体の複合性がだんだん明確に認識されるようになっていくのではないかと思います。

 もう1つの流れ、殊に全体のとらえ方も変化している。英国のブレア政権のブレーンとして有名なアンソニー・ギネンツという社会学者がいますけれども、ギネンツは、だいぶ前からエージェント・ストラクチャー・ジェネレーションズという形で、全体というのは、個の集まりだけではない、それよりもプラスアルファがある。しかし、その全体と個のかかわり合いがないかというと、そんなことはない。全体と個というのが関係を持っているのだというとらえ方をしますね。それから、エプスタインさんの『人工社会』の中にも出てきましたし、それから、きょうのケース2で紹介するシェリングの分居モデル、セグレゲーション・モデルというのがありますけれども、シェリングはもう30年ぐらい前から、マイクロモチーフス、マクロ・ビヘイビアということで、1人ひとりの好み、あるいは行動モチベーションと全体との関係がどうなっているのかということを見てきた。

 それから3番目が場、コンテンツとかシミュレーションと言っているもののとらえ方も変化して、主体が一体どういう場に置かれているのかということが非常に重要なのです。つまり、真空地帯でその主体が動き回る、相互作用するのではなくて、やはり置かれた系譜の上で、その人の、その主体のヒンというのが変わってくるのだということで、ローカリティ・アンド・グローバリティ、スペース・アンド・プレースというようなことが、社会科学で非常に問題になった。これはある意味では、我々の考え方が非常にマルチエージェント型シミュレーションを持ち込むのに、熟した発想法になっているのではないかと思うのです。シミュレーションは、社会科学において、どうしても社会をいじくるというのは問題だ。社会工学というのがなかなか市民権を得ない言葉であるのは、社会をいじくっていいのかというような問題が常にあるわけですが、シミュレーションすると、禁じ手を犯さずに社会を振り返る、あるいは、社会の改革というのに我々は接近できるのではないか。

 さて、構造計画研究所で開発してくださったABSですが、非常にモデルをつくっていく上で、制約条件の緩いシミュレータではないかと思います。ですから、ある意味では、森羅万象の加速観をABSの中につくることができるのではないか。それから、もう1つ、これはエプスタインさんの人工社会の中で、ディスクリート・ダイナミカル・システムというふうに、マルチエージェント型シミュレータを位置づけていたのですが、確かに実際に力学というのは、ただし、注意しないといけないのは、このシミュレータの時間というのは、ニュートン的な時間ではない。つまり、一様に一方向に流れる時間ではなくて、イベントごとに時間が刻々と積んでいく。時間がディスクリートであり、かつディスクリートの感覚が実時間に必ずしも対応していないということは、シミュレーションをしていく上で注意する必要があるのではないかと思います。いずれにせよ、我々が複雑な森羅万象のある種のモデルとしてABSをとらえることができます。

 そういう堅苦しい表現は忘れて、ABSで少し遊んでみようということになると、そのルール――エージェントはルールに従って動くわけですが、しかし、非常に多様な自由度を持っている。このルールと自由のその微妙なバランスというのが非常におもしろい。それから、当然、遊ぶにしても、ある問題意識というか、こんなことを知りたいな、こんなことをやったらどうなのだろうという想定のもとに遊ぶわけですけれども、適切な問いかけから、ぱっと驚く答えを出す……。これがエマージェンシーとか、自己組織化とか言われている大局的なものなんですね。だから、何があらわれているのかというのは、これは使っている我々が解釈しないといけない。モデル自体がこんなパターンがありますよというふうに我々に注意を喚起してくれるわけではなくて、我々がそこに見出さなければいけない。

 どうやったらABSをより有効に使うことができるのだろうか。シミュレーションというのは、ある意味では、なるべく現実に近づけるということがあるわけですが、森羅万象というのは非常に複雑なわけですね。複雑ですから、逆に、本質を理解するには、むしろより過激にというか、ラディカル、より攻撃的に、それからより単純に、それからより不自然に。実は、現実への接近ではなくて、現実から離れるということが重要なのです。常識というスパイスを加えて、気楽にやってみましょうよと。遊んでいるうちに、ブラックボックスの内部がだんだんだんだんわかってくる。つまり、我々が理解したいのは、海の上に浮かんでいる船の細かい動きなわけですけれども、その船が単に波間に漂っているのではなくて、海底に浮かんで押さえられている、つながっている。その……の点を見出すというのが重要なのです。何よりも認識ですから、失敗しても怖くない。リセットボタンを押せば、すべて宇宙の始まりに戻るということです。

 さて、これからケースを3つ紹介するわけですが、1つは人工社会の第3章の1というところで、アリさんがえさを食べながら息をしていくというモデルがあるわけです。それをABSに少し姿を変えて移殖したものですが、ちょっと注意というか、『人工社会』の読み方なのですが、訳者の服部さんと木村さんは非常にご苦労なさって、大文字のシュガースケープと小文字のシュガースケープとを区別していますね。大文字のシュガースケープというのは、シミュレータの名前、小文字のシュガースケープというのが、えさが生えたり、出たりする、そういう場なんですよね。ここでは、ABSというのを大文字のシュガースケープというふうに思っていただいて、小文字のシュガースケープをABSに乗っけて、そこで非常に自由に、いろいろなルールを変えて遊んでいます。

 実際に遊んでみた坂本君に、このアリさんの例を紹介してもらいたいと思います。じゃ、坂本君。

【坂本】

 それでは、……変わりまして。まず、理解のモチーフに、シュガーモデルの概要について、簡単に説明しておきたいと思います。画面に出ている、実は……だった二次元空間がシュガースケープ、先ほど先生がおっしゃった言葉をかりますと、小文字のシュガースケープに相当するものであると考えた。それで、黄色の濃淡が砂糖の分布をしめしたものです。広さは50×50、計2,500の……からなっています。

 一方、この黄色なのですが、黄色の濃淡が砂糖の濃度をあらわしているわけですが、各点でアリが砂糖を摂取しますと、砂糖は一たんゼロになってしまいます。その部分は何かといいますと、指定した間隔に従って砂糖が再び補充されるということになるのですが、以下では、一応4セットに1度砂糖が補充されるということで、環境を固定したいと思います。あと、一方、この黄色のシュガースケープに張りついている青の点なのですが、これがアリです。アリには食欲、財産、シェアといった3つの特性によって、特徴づけられています。一方、アリの行動ルールですが、大ざっぱに言いますと、動く、食べる、生む、死ぬの、4つに分けられると思います。

 各属性とルールの関係について、やや少し説明しますと、大体次のようになります。各ステップごとに、例えばアリは、自分の周囲を見渡し、その視野に入るうち、最も砂糖が豊富な地点に向かって移動していきます。そして、その場所でアリは砂糖を摂取するわけですが、それを一たん自分の財産に加えます。その後、そのアリの属性の食欲によって、指定された理論に従って、砂糖を消費します。一方、アリの財産は、その食欲の値の10倍を超えますと、子アリが生まれてくることになります。これはちょっと重要なのですが、一応デフォルトの設定では、子アリと親アリとの間に、遺伝的な連関は全くなくて、子アリの属性はランダムに決まります。一方、アリの財産が底をつくと、つまり財産の値がゼロを切りますと、かかわりを出してきてしまいます。以上が、アリの基本的な構造ルールです。

 それで、以下で行う実験なのですが、大きく分けて2つあります。1つ目が、アリの属性の1つである食欲に注目して、この食欲の初期水準を変化させ、その結果生じる個体数全体の規模の変動を見ようというのが最初の実験です。この食欲の初期水準なのですが、これはどういう値を指しているかといいますと、シミュレーション開始時におけるアリの個体数における食欲の平均値を出します。

 それで2つ目の実験なのですが、2つ目の実験は、アリの属性だけではなく、アリの行動力を変えてみようというもので、無性生殖、自然死という2つのルールを追加して、その結果生じる個体数全体の規模の変動を見ようというものでございます。無性生殖なのですが、一言で言いますと、このルールは、親アリと、生成される子アリとの間に遺伝的な連関を持たせようとしている部分です。具体的に言いますと、画面に出ていますとおり、子アリの食欲を親アリの食欲、±0.05の範囲で、一応乱数で配分するということです。一方、自然死なのですが、これは新たな変数として、アリに年齢及び寿命という変数を与えまして、アリの年齢が寿命を超えると死亡するという非常に単純なルールです。このルールは、デフォルトでは、アリは餓死する、餓死しない限り死なないというふうになっているのですけれども、それ以外に死の機会を与えようというのがこのルールのねらいです。

 まず、実験1ですが、ここのグラフはシュガースケープで、先ほど言いました食欲の初期水準と、その後のアリの個体数の規模変動の時系列的な展開との関係を示したグラフです。見ていただくとわかると思うのですが、非常に食欲と、あと最終的に到達される個体数との間に密接な関係がある。密接というか、非常に単調な関係があるということがわかると思います。例えば食欲2.0の場合で言いますと、ちょっと見にくいかもしれないのですが、およそ個体数200という水準に急速に収束してくることになります。重要なことなのですが、この200という数字は、死亡後でもほとんど変化しない、極めて安定している結果だというのは非常に重要だと思います。食欲関連ゼロの場合は、およそ100匹程度に収束する。4.0になりますと、アリは生きていけなくなって絶滅してしまう。非常に単調な結果です。

 大ざっぱに言いますと、この結果は、食欲の小さなアリは死ににくく、しかも、子孫を残しやすいという基本的な性質を反映した結果であると思っています。つまり、食欲の小ささが個々のアリに与える生存上といいますか、環境への適用上のアドバンテージが、個体数全体に反映された結果であると言っていいと思います。

 簡単なのですが、以上で実験1は終わります。

 次が実験2、無性生殖ルールという新たなルールを導入したら、個体数はどういうふうに変動するかという点について見ていきます。画面に出ているのが、食事、食欲水準2.0のもとでの無性生殖ルールを導入した場合における個体数変動をマッピングしたものです。左側の画面がシミュレーション解析におけるアリの個体数の一覧なのですが、マッピングを示したものです。このとき、アリの個体数はちょうど300匹です。その後、300ステップ目になって、画面の右側なのですが、517匹にまでふえます。先ほど、実験1の場合の食欲水準2.0に対応する個体数がおよそ200であったことを考えると、300ステップ目にして、かなり増大しているということがわかります。

 その後の展開なのですが、600ステップ目になって、654匹、300ステップの間はほとんど変化していないのですが、700ステップ目、その次の100ステップの間に、2,432匹まで一気に増大してしまいます。ほぼ画面をびっしりと満たすところまで個体数が膨張することになります。

 この2つ……は以上のような実験の結果を示したものですが、左側が先ほどの画面でお見せした初期食欲水準2.0の場合に相当する個体数変動をグラフに示したものです。個体数変動と一緒に、アリの個体数における食欲平均の推移についても示してあります。これを見てみればわかると思うのですが、750ステップの間に2,500匹水準まで、食欲水準が2.0の場合はふえています。一方、食欲の平均は、ほぼ単調に一貫して下がり続けていることがわかります。

 右側なのですが、右側は、初期食欲水準3.0の場合に対応する死亡の結果を示したものです。アリの数は、食欲2.0の場合に比べて、それほど激しくふえたりはしていなのですが、それでも、実験1の場合は、食欲水準3.0に対して個体数が100匹前後にまでしかふえなかったことを考えると、無性生殖ルールを導入した場合、189匹、200匹近くふえているわけですから、無性生殖ルールの導入によって、全般的に、アリの個体数がふえたということは言えるのではないかと思います。

 以上の結果をまとめますと、親アリと子アリに遺伝的な連関を持たせる結果、まず1つは、食欲の初期水準に対する個体数規模が、実験1に比べ全般的に凌駕したということが言えると思います。極端なのが、先ほど、最初にお見せした初期食欲水準2.0の場合で、相対的に食欲が低い場合は、長い時間をかけてですが、最終的に画面いっぱいにまでアリが膨れ上がるという極端な結果にまで至るということがわかりました。一方で、個体分の食欲の平均値は、個体数と負の相関を示ししながら、絶えず下がり続けるということも言えます。

 以上の結果に、一通りというか、大ざっぱな説明を加えますと、生存力と繁殖力……個体、つまり食欲が相対的に低い個体が生き残る、自然選択が……機能するようになるのではないか。それが、個体数の全体の規模を押し上げていくのではないだろうかと考えられております。

 続いて、実験3にいきます。実験3は、無性生殖のルールに加えて、自然死ルールを追加した場合の個体数変動による……。先ほどと同じように、個体数の食欲平均値の変化についての結果の一部をグラフに示したものが、この画面に……あります。……は、先ほどと同様、食欲2.0の場合の結果を示したものです。初期食欲水準2.0の場合に関して言いますと、さほど先ほどの結果と変化していないように見えると思うのですが、実際には初期食欲水準2.0の場合、個体数の規模が空間を満たす程度にまで膨張する、かなり繁殖されている。およそ300ステップほどで繁殖されています。同じように食欲の平均値も一貫して下がり続けています。一方、著しい結果が出てくるのは、この次の右側の初期食欲水準3.0の場合なのですが、この場合、自然死ルールを導入しますと、1,550ステップというかなり長い時間経過を待たなければいけないのですが、個体数は最初は漸増を続けて、その後、急激にふえるという形で、最終的に2,500匹、つまり空間をほぼびっしりと満たす水準にまで達することになります。

 以上の結果をまとめたものがこれなのですが、アリに餓死以外の死の機会を与えますと、まず1つ言えることは、実験2に比べ、個体数の増減の幅が大きくなり、可変動速度も加速されるということが実験でわかります。

 また、次の結果が重要なのですが、自然死ルールを導入しますと、個体数は、最終的に空間飽和が、絶命化……なっていく。はっきりした結果が出る。これは非常に重要な結果です。この結果に再び大ざっぱな説明を加えますと、個体数の、自然死ルールを導入することによって、個々のアリは死にやすくなるわけですから、個体群全体を見てきたときに、個体群の内部構成が、自然死の導入によって、ダイナミックに変わっていくことになる。……て、それが個体群に対して自然選択が絶えず働く環境を用意することになる。その結果、自然選択が持続性を獲得するということになりまして、この……過程が個体数を、絶命しない場合、限界まで押し上げていくのではないかと考えられています。

 以上で終わります。

【山影】

 今の人工社会のモデルに一番近いモデルをABSで試した。どこが不自然か。食欲が2とか3の個体が0.5で生き延びるのですから、我々の普通のカロリーが2,500ぐらい毎日必要だ。半分でも1,200ぐらい必要だ。そうすると、毎日食っているものを5分の1、6分の1までして生きていけるのというところが不自然なのですが、そういう不自然を残したために、ある意味では、個体が死ぬことの全体にとっての意味というのが、逆にビビットにあらわれているんですね。もちろん、自然にしたかったら、食欲水準の下限値というものを設定するだけで、ちゃんとより自然に近づくわけですから、あまりそういうことは気にしなくたっていいんじゃないかなということです。

 ちなみに、ちょっと時間を食っていますけれども、次の田中先生から少し時間をちょうだいするということでご了承を得ていますので、このままケースを紹介するということで、これがエプスタインさんの本の6−3−1でも紹介されているシェリングの分居モデルです。それをABSの上に実現したものです。

  これは、田村君と板山さんに発表してもらいます。じゃ、田村君。

【田村】

 まず最初に、エージェントの嗜好、シェリングの分居モデルについて話します。まず、このシェリングの分居モデルというのは、エージェントの嗜好、マイクロモービルと、それによってもたらされる社会全体の分居のあり方、……ビヘイビアとの関係を体現したモデルです。このモデルによって、個々のエージェントは、それほど大きくない嗜好傾向を持っている場合でさえも、相対的にも全体的にも……ことが示されました。

 次に、このモデルのエージェント行動領域ついて説明します。まず最初に、このエージェントというのは、視野内にいるエージェントと……を区別した形で数えていきます。それを数えることで、幸福度というのを計算するわけですが、幸福度の計算というのは、下の式にあらわされていますように、視野内にいる増殖のエージェントの数を数え、それを視野内にいるエージェントの総数で割った数で計算します。そうやって計算された幸福度というのは、閾値以上であるかそうでないかというのを次に判断するわけですが、ここで閾値というのは、そのエージェントが満たさなければいけない最低限の幸福度の度合いを示していまして、これは潜在的に与えています。仮に幸福度が閾値を上回る場合には、そのエージェントは、幸福だと自分が判断し、その場所に定住します。一方、幸福度が閾値を下回った場合、そのエージェントは自分を不幸だと判断し、その場所から移動するというモデルです。
 例えばあるエージェントが閾値に、……よりも大きくエージェントが存在して、その中で周囲に異端色と同色のエージェントが存在したとします。そうすると、幸福度というのは、5分の3、イコール、エージェントという形で計算されます。仮にこの場合に閾値が0.5とかというふうに決定された場合には、幸福度が0.6であるので、そのエージェントは幸福だと判断し、その場所に定住します。一方、幸福度が閾値を0.8というふうに設定した場合には、そのエージェントは自分を不幸だと判断し、移動するという形で……。

 以上のようなモデルを用いて試行した結果、主な結果を説明します。まず最初に、……というのは、シミュレーションの初期状態をあらわしている各エージェントというのはランダムに配置されています。これが、先ほど述べたようなエージェントの構造ルールに従って、エージェントが動いた結果、右の図であらわされるような均衡状態に達します。右の図を見ますと、赤のエージェントとか青のエージェントというのが固まって集団になっているのがわかると思います。つまり、これが分居という存在になっているということを示していると思います。今回のこの試行では、周囲に40%以上の同色がいることを各エージェントは要求しています。つまり、閾値が0.4というふうに設定しているわけですが、これはそれをお互いに各エージェントは嫌っていなくても、結局は分居してしまうということを示していると思います。

 本研究では、人工社会で提起された以下の問題に対する回答としています。まず最初に問題1として、色盲エージェントを侵入させることで、分居状態を攪乱することはできるのだろうか。次に、問題2として、それに必要な個体数はどの程度だろうかということについて考えます。

 次に、本研究では、以下のモデルについて議論することにします。まず最初に、初期に存在するエージェント、この場合、今回は赤、青というふうにしていますが、赤のエージェントは、平均コストが80を超えると、色盲エージェントが黄色というのが……。こうすることで、ある程度分居が進んだ社会に色盲エージェントが侵入しているということを想定しています。空間の大きさが35×35の大きさ、エージェント数というのは、赤、青のエージェントが350で、プラス、色盲エージェントが侵入するというふうになっています。

 人工社会では、色盲エージェントの性質というのは明確には定義されていません。ですので、本研究では、色盲エージェントを独自に解釈して、次の2つのモデルを作成しました。まず最初に、引っ越し好きエージェントモデル、引っ越し好きエージェントが侵入するモデルというのを考えました。このモデルでは、常に満足することなく動き回るエージェントが侵入します。つまり、引っ越し好きエージェントは、自分が色盲であるために、周囲を自分はみんなと違うと考える。不幸であると判断し、動き回ります。

 もう1つは、寂しがりやエージェントが侵入する例です。このモデルでは、種類にかかわらず、ある一定以上のエージェントが自分の周囲に存在すると満足するエージェントが侵入します。つまり、寂しがりやエージェントは、自分が色盲であるために、周囲を自分とみな同じと判断します。また、寂しがりやモデルでは、寂しがり度というものを提起しています。例えば寂しがり度が5というのは、あるエージェントはエージェント種類にかかわらず、とにかく周囲に5匹以上自分の周りにいないと、自分は幸福だというふうに判断しないというふうに判断しないというモデルを考えています。

 以上のようなモデルを考えて、次に、その結果について報告します。

【飯山】

 実際にシミュレーションした結果を報告します。

 問題1、色盲エージェントを侵入させることで、分居状態を攪乱することはできるのだろうかということについて、引っ越し好きモデルでは、閾値が0.4までで、閾値はかなり低い割には、黄色は侵入できないという結果になりました。閾値が0.4から0.65までの場合というのは、黄色はより分居を促すという結果になりました。これは、2つの左の図を見ていただければわかるのですが、左のほうの図が、黄色が入った瞬間で、右のほうの図が、これから100ステップ後というのをあらわしています。これを見ていただくと、黄色エージェント、色盲エージェントが入ったことで、赤と青の集団の大きさがより大きくなっていることがわかります。つまり、分居がより促されたことがわかります。閾値をそれより高い0.65以上とすると、黄色が入ったことで、赤、青の分居状態が攪乱をされたという結果になりました。これは右の2つの表を見ていただくとわかるのですが、黄色エージェントが入ったことで、赤、青の分居状態、集団が崩れて、合居状態になっているということがわかるかと思います。

 そこで、本当に色盲エージェントの色盲という特徴は、分居状態を攪乱したのかということについて確認するために、色盲という特徴を持たない青エージェントを侵入させたモデルとの比較を行いました。この結果、カク……で挙げた数字ですが、この図はエージェントの閾値と平均幸福度の関係を示しています。青を侵入させたモデルの閾値と平均幸福度の関係は、この図では青の線であらわしています。黄色のエージェントを侵入させたモデルも、閾値と平均幸福度の関係は黄色の線で示してあります。これを見ると、青エージェントを侵入させるモデルのほうが、全体的に平均幸福度が高いということがわかります。平均幸福度が高いということは、分居の割合がより大きいということですから、以上の結果より、色盲という特徴が攪乱しているということがわかりました。

 次に、寂しがりやモデルの結果ですが、寂しがりやモデルの結果は、引っ越し好きのモデルの結果と対応が非常に類似していました。しかし、寂しがり度によって、攪乱の起こりやすさの変化するという点では違っていました。具体的には、閾値が0.4までの場合には、黄色は侵入できませんでした。閾値が0.4から0.5までの場合には、色盲エージェント、黄色の侵入で、より分居が促されるという結果になりました。また、この場合には、色盲エージェントの寂しがり度が増すほど、分居が促される結果になりました。閾値が0.6以上の場合には、色盲エージェントが侵入したことで、赤、青の分居状態が攪乱されるという結果になりました。ただし、寂しがり度が4から6の場合、中程度の場合には、比較的攪乱の度合いが低いという結果になりました。

 次に問題2、攪乱に必要な個体数はどの程度だろうかということについて報告します。引っ越し好きモデルに関しては、ここで挙げた図のような結果が出ました。この図はエージェントの閾値と侵入させた色盲エージェントの数との関係をあらわしています。ピンクでプロットされた点は、色盲エージェントが侵入しても攪乱されなかった部分をあらわしています。青でプロットした点は、攪乱をされたポイントをあらわしています。それよりわかることは、閾値が高くない場合で、攪乱に必要な色盲エージェントの個体数はより少なくて済むということです。具体的には、閾値が0.6ぐらいの場合だと400程度、これは全体の31%程度で、閾値が0.8ぐらいの場合だと150、全体の18%程度の色盲エージェントが分居状態を攪乱するだろうという結果になりました。

 次に、寂しがりやモデルについて報告します。寂しがりやモデルでは、閾値が0.6以上で攪乱が見られました。また、閾値が高いと、攪乱に必要な個体数が整っているので、……多く必要になったという結果は、引っ越し好きモデルでの結果とほぼ同じ結果です。また、寂しがり度が必要な個体数との関係に関しては、ここで……図のようになっていて、寂しがり度が0から4までの場合は、寂しがり度が増すにつれて、攪乱に必要な個体数がふえました。寂しがり度が5、6の中程度の場合には、攪乱に必要な個体数が最も多く必要で、大体400から500程度必要だということでした。また、さらに寂しがり度が増して、寂しがり度7、8程度になると、必要な個体数が減少するという結果が見られました。

 以上の結果をまとめて、私たちの研究の結論としたいと思います。私たちは、今回の実験において、色盲エージェントは分居状態を攪乱するか、合居状態をつくるのに必要なエージェント数はどの程度なのかという2つの問題意識について考察しました。まず1つ目の問題意識である色盲エージェントは分居状態を攪乱するかということに関しては、エージェントの閾値がかなり高いと、攪乱が可能であるということ、閾値の値によっては、逆に、色盲エージェントを入れることで、分居を促すこともあるということがわかりました。

 第2の問題意識について、合居状態をつくるのに、必要なエージェント数はということに関しては、寂しがり度によるのですけれども、全体の約2割から4割の色盲エージェントを侵入させることで、合居状態をつくるということがわかりました。また、閾値が高ければ、攪乱に必要な色盲エージェントが少なくてすむということ、また寂しがり度が低い、または高い場合にも、侵入させる色盲エージェント数は少なくて済むということがわかりました。

【山影】

 ということで、これのインプリケーションは、社会が、例えばある人たちとほかの人たちとはっきり分かれているときに、もしもそういう状態が望ましくないとするならば、どういった政策をすればいいのか、どうも補助金をつけて、しょっちゅう引っ越しをさせるというのが有効な手段ではなかろうかというインプリケーションが出たわけです。

 最後、オオカミと羊ということで、これは『人工社会』で紹介はされているのですが、実際にはやられていないのをやってみた。非常にこれは苦労したシミュレーションです。では、これをやった鈴木君に、このオオカミと羊を紹介してもらいます。ちなみに、ここに3番目に、キツネとヤギというふうに書いていますが、これは鈴木君の報告では、オオカミと羊が2種類になったり、あるいは羊が2種類になったりして、そういうふうに解釈しています。では。

【鈴木】

 この例は、……というものをベースにしています。これは、捕食者と被捕食者の……関してでありまして、繁殖率が特定の値を与えることで、例えば羊がふえるとオオカミがふえて、それによって羊が減って、それで……なくなったオオカミが今度は減って、また羊がふえていくといったサイクルをあらわすことができます。仮想空間にオオカミと羊をはなしたら、実際に、個体数を増減させながら、……することができるのかというのを、シミュレーションの結果を交えながら……。

 まず、エージェントがどういう行動をするのかというのを簡単に説明します。オオカミも羊も、それぞれの繁殖率に従って……。また、各エージェントは……ランダムに……よって……しますが、オオカミは……ごとに……しまして、ゼロになったら死んでしまいます。そのかわり、エージェントと重なると……て、……します。あと、ほかの条件を一定に保った上で、オオカミの繁殖率を……的な条件を……。

 まず、極端な例としまして、オオカミの繁殖率を5とした場合、……を15とした場合、……分かれています。どちらも……オオカミはこのようにふえていく前に、羊が一気にふえてしまいます。サイクルが大きくなって、最後にオオカミが……分布していることがわかります。それは右側……として、初めは小さいサイクルの……ですが、その後でオオカミがふえる前に、羊がぐっとふえてしまい、サイクルが大きくなって、オオカミが死んでしまいます。オオカミの繁殖率が、15の間では、先ほどの2つの例に比べて多少安定的になっています。しかしながら、……がだんだん大きくなってしまうためか、そこでもやはりオオカミのふえ方に比べて、羊のふえ方が大きくなって、その結果、サイクルが大きくなって、オオカミが絶滅してしまっています。

 羊の繁殖率を……してみましても、どうも絶滅が避けがたいので、この状況から、……実験にあらわされていますけれども、……それはこのモデルでは何らかの理由で、十分働いていないのじゃないかと考えています。その原因の1つは、空間上の……の偏りなのではないかというふうに……。
 オオカミの繁殖率が9のときの様子を追っていったのがこちらです。このあたりにオオカミが固まっているのは見てとれると思います。それに対して、このあたりに、その間の部分ではオオカミはほとんどいません。それはステップが進むにつれて、オオカミが自分の近くにいる羊を食い尽くしてしまい、このあたりにオレンジ色の羊がいない部分ができまして、一方で、このあたりには羊が固まっている部分が見えると思います。その結果、波がだんだん大きくなってしまいまして、最終的にはこのように絶滅してしまいます。

 ちなみに、このルールでは、エージェントが常に移動する距離が大きければ大きいほど、生まれたエージェントが親エージェントから離れていきますから、結果として、この分だけ空間上に広がりやすくなっています。もし、この空間上の偏りのせいで、先ほどみたいにオオカミが減りすぎて、羊がふえすぎて、系が大きくなってしまうという現象が起こるわけですから、以下のところは、……として言えるのではないかということです。

 まず、オオカミが偏ると羊を食い尽くしてしまうので、生存に不利である。次に、羊が偏ると、群のほうまでへりにくくなっていって……ということで、もしもこれらの仮説が正しければ、それぞれのエージェントの半分を移動力の高いものと置きかえたら、移動力が高くて広がりやすいオオカミがふえやすくなって、移動力の低くて固まりやすい羊というのは、減りやすいのではないかということがわかります。

 実際に、その……ということを見てみます。ここにあります青い線で……いるのは、移動力が1の羊でありまして、緑色は移動力を2にした羊を飼っている。そうしますと、移動力の高い羊はどんどん数が減っていって、……さってしまうのに対して、移動力の低い固まりやすい羊というのは、その数をどんどんふやしていくことがわかります。一方、オオカミのほうなのですが、ここで見えていますピンク色の線というのは、移動力の高い……、固まっていますのは、茶色い線があるのですが、こちらは移動力の……。これが羊なのですが、そうしますと、移動力の低いほうのオオカミはどんどん数を減らして、淘汰されてしまうことがわかります。

 これらの結果から、偏りやすい羊というのはふえやすく、偏りやすいオオカミというのはふえにくいということが言えるわけです。さらに、ここから、エージェントの空間上での偏りによって、オオカミはふえにくく、羊がふえやすくなるということも言えます。そこで、ほかの条件が同じならば、偏りが起きやすい状況では、羊の個体数が大きくなって、偏りが起きやすい状況と起きにくい状況を、群の径の状態を比べたのがこちらです。左側が軌道力がともに1で、エージェントの……ともに1でして、偏りがすごく起きやすい状況になっています。それに対して、右側は5ですので、偏りが起きにくい状況になっています。見ていただけるとわかると思うのですが、こちらです。偏りにくいほうで、最大値が2,000をちょっと超えたあたりからですね。それに対して、偏りが起きやすい状況では、3,600ほどまで大体……います。それから、先ほど見ました羊がふえすぎてしまって、波形のサイクルがどんどん大きくなって破綻してしまうというそのパターン……ということが言えると思います。

 エージェントのレベルで考えると、オオカミが…………を……のだろうということが予想されます。一方で、羊は空間上に固まるものが生き残りやすいことがわかりました。今回の実験から、こうした羊の群をつくる行動というのが発達していくのだろうということが予想されるんですが、最後のところで……ましたように、システムレベル……というのは、径のサイクルがだんだん大きくなってしまって、そこが……しまうということがわかるわけです。これに対して、オオカミは空間上に飛散していくような力は、例えば……というようなことが想像できるのですが、そういうものが発達していると、結果として、システムレベルの……の安定化というのに役立つのではないかということが説明できるわけです。
 最後に、シミュレーションを実際に行った上で、問題となった……挙げておきたいと思います。まず、エージェントがシュンコウに広がりやすくということで、ある程度の安定性を得ることができたのですが、径の……できませんでした。原因の1つとして考えられるのは、実験規模として、1つひとつのエージェントはランダムに移動するというふうにされておりますので、あるオオカミがある羊を捕まえられるかどうかというのは、ある程度運かもしれない。200匹ぐらいいるときに、数匹の犬が死んでも状況に対しては変化がないのですが、ほんの2、3匹しか残っていないときに運悪く1匹死んでしまうと、……状況に非常に大きく影響してしまいます。幾つか……できる限り……ためには規模を大きくしていけばいいのですが、コンピュータの性能上、限界があります。そこで、結果がどうランダムかということで、どういうふうなモデルの構造から来るものなのとかというところを、注意して考えていく必要があると思います。

 また、皆さん、ABSを使って……。興味を持った現象が……と思うのですが、そのことがエージェントが何をあらわしているのかというのを、一たん、考えてみる必要があると思います。例えば先ほど出てきたオオカミと羊の空間上にあった茶色い、四角い点は、必ずしもオオカミそのものをあらわしているわけではなくて、オオカミが羊をとらえる射程圏をあらわすものと考えられる。モデルを……して、そう思ってしまったような……随分行っていたわけです。そうした場合に、……というのは、割と大変な作業ですし、……を壊したときに一体何が残るかというのを考えるのも大変なのですが、こうした作業をしながら、モデルが……されていくのではないかなと。もう一度立ちどまって考えてみる必要があるのではないかなと思いました。
 以上です。

【山影】

 以上、我々がABSを使っていろいろと遊んでいるものの一部をご紹介したわけです。殊にABSというのは、そもそも組み込まれているサンプルモデルをパラメータを変えて遊ぶこともできるし、3人、紹介がありましたように、ビジュアル・ベーシックに似た言語で、自分でプログラムを書いて遊んでみることもできるということで、かなり汎用性の広い、汎用性の大きなモデルかなというふうに思っています。ただ、……上で我々が見るときに、個体はもちろんエージェントなのだけれども、その環境もエージェントとしてとらえられるというようなこともあり、非常に個体とほかの相互作用を実現しやすいモデルだと思います。

 ただ、鈴木君がさっき言ったみたいに、我々が見ているのは、あくまでもプログラム計算結果であって、それを解釈し、意味をそこに見出すのは、遊んでいる我々本人の問題である。そのときに、午後のセッションでABSの二次元平面を物理的な空間ではない形で解釈しているわけですけれども、これは非常に重要なポイントで、どうしても我々は平面というのを物理的なものに引き寄せて考えるわけですが、基本的にはこれは位相空間なわけで、均衡が整理される異次元空間で、我々はものごとを考えなければいけない。いいのだけれども、それをつくり出す、頭で考えるというのは結構大変だなということで、空間以外の森羅万象をどういうふうにABSに乗せるのかというのに、今、苦労しております。

 時間もだいぶ過ぎてしまったので、あとは端折りますが、我々はこの研究を今続けている最中で、今の3つのケースは、部分的にお手元に配られております「ワーキングペーパーシリーズ」の1、2、3の一部であります。現在、6か7ぐらいまで編集段階に入っておりまして、これは、一番下にこのプロジェクトのホームページが書いてありますが、そこから今、ダウンロードができるような形にしてありますので、現在のところ、お手元の3本のワーキングペーパーしかありませんけれども、近い将来、順次、このABSを使って遊んだ空間というのが紹介できるようになるのではないかというふうに思っております。上にも問い合わせ先が書いてありますので、ご関心のある方は、いろいろとメールをくだされば、研究の相互作用も高まるかなと思います。

 時間が大変超過して失礼しました。これで、我々のセッションを終えさせていただきます。(拍手)


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