カスタマーズコンファレンス2000 e-Technology to the Next Century

Session B. マルチエージェントシミュレーションとリスク分析

セミナー議事録

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【発表者と公演内容】

13:00 〜 14:00

 東京大学,田中 明彦 教授

 東京大学東洋文化研究所教授。専門は世界システム、日本外交。 1954年生まれ。 77年東京大学教養学部卒業後、81年マサチューセッツ工科大学政治学部大学院で博士号取得。(財)平和・安全保障研究所研究員を経て、84年に東京大学教養学部助教授(国際関係論)、90年東京大学東洋文化研究所助教授に就任。94〜95年には牛場フェロー・プログラムによりオックスフォード大学客員研究員。98年より現職。

Photo of Mr.Tanaka

<主著>

 『世界システム』(東京大学出版会、1989年)

 『日中関係1945-90』(東京大学出版会、1991年)

 『新しい『中世』−21世紀の世界システム』(サントリー学芸賞受賞、日本経済新聞社、1996年)

 『安全保障―戦後50年の模索』(読売新聞社、1997年) など。

Topic: 「勢力均衡論:古典的国際システムの安定性

 国際政治モデルにおけるマルチエージェントシミュレーションの実例を紹介し、その意味を論じる。従来のシミュレーションモデルとの比較や有効性についても考えてみる。

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【議事録】
 

【田中】

 東京大学の田中でございます。本日は私どもが構造計画研究所の皆さんと一緒に勉強させていただいて、マルチエージェント・シミュレーションのこのソフトウエアを使わせていただきながら、勉強してきた成果の一端をご披露するということであります。私どもの、特に私の関心は国際政治学でありまして、必ずしも企業の経営や戦略ということと結びつくというわけではございませんけれども、こういうある種、国際政治というようなもの、分野までマルチエージェント・シミュレーションを使う可能性があるという、1つの事例としていただければというふうに思います。

 きょうのお話の大体の構成、3部構成といいましょうか、最初の2つは短いんですけれども、一番最初にそもそも国際政治学、私の勉強しております分野ですけれども、国際政治学においてシミュレーションというようなものが、どんなふうに使われてきたかということを簡単にお話し申し上げまして、その後、国際政治学からそういう国際政治の研究から見て、エージェント・ベースド・シミュレーション、この構造計画研究所で開発していただいたプログラムの利用法、どんなふうに利用できるかということを申し上げまして、最後に実例としましてきょうのタイトルで古典的国際システムってありましたけれども、古典的国際システムにおいて見られる1つのパターンとしての勢力均衡、そういう勢力均衡のモデルというものをご紹介したいというふうに思います。

 国際政治というと、けさのニュースでも北朝鮮の軍の指導者がアメリカへ行って、それで共同声明を出して、国務長官が北朝鮮へ行って、その後、大統領が北朝鮮を訪問するというようなことがあって、おおむね国際政治の研究といいますと、非常にそういう個別の具体的な事象を綿密に追っていくということが多うございます。ですから国際政治学者というと、かなりの程度は日々起こるさまざまな現象について解説をするというようなことをやっております。これは私自身もそういうことを時々やるわけですけれども、そういう国際政治の研究の中に個別の具体的な事象の説明と並んで、やはりもう少し原理にさかのぼって、国際政治というのは一体どういうふうに動くのかというような関心を持つ研究分野があります。そしてその原理に基づいたさまざまなことを、国際政治というのは実験室でやることはできませんので、実際に戦争をやらせてみて、それで何が起こるということをやったら人が死んじゃいますから、そういうわけにはいかない。そこである種の原理を確かめる、それによって将来のことを考えるという道具として、コンピュータを使ったシミュレーションというようなものが1つの方法論として考えられてきております。

 ほとんど歴史をさかのぼりますと、かなりこのシミュレーションというのは古くからやっておりまして、コンピュータが存在する前から各国の軍隊では図上演習というふうにいって、テーブルの上に地図とか海の絵を置いて、そこに軍隊、軍艦を置いて、こちらがどう動いたらどうなるというようなことで、シミュレーションをやってきたわけであります。

 それから軍隊がやる図上演習ですね、これは今も自衛隊がやっているわけですけれども、それに加えてもう少し軍隊直接というわけではなくて、政治外交のシミュレーションというと、世界じゅうのどこかで危機が起きたときに、アメリカ合衆国大統領は自分のスタッフとともに、どういう決断を下すか。それからそれに対して冷戦の時代であればソ連の共産党の書記長は、スタッフとともにどういう結論を下すかというようなことを、人間同士がいわばロールプレーイングゲームってありますけれども、自分の役割を割り振られて、そこにある種のシナリオを与えられたときに、実際にどうするとかというような形でゲームをやっていく。そのゲームによってある種の危機においてはどういう行動パターンが生まれるかというようなことを研究するという方法もありました。これは主にアメリカで1950年代後半ぐらいから60年代にかけて、そのやり方について開発されて、最近でもかなりの程度、こういう役割分担ゲームですね、ロールプレーイングゲームをやるというのはありまして、日米経済摩擦の役割、こういうロールプレーイングゲームというようなことを、かつてテレビでちょっとやったことがあります。

 それからこれは全部人間がやるわけですけれども、ここに一部にコンピュータを導入して、経済情勢がどうなるかとか、その他のところをコンピュータのモデルで出して、そこに人間が反応するというマンマシンゲームというような形も試みられてきました。それが1970年代ぐらいから、コンピュータの技術が発達することによって、それからまた幾つもの数量的なモデルというもの、そういう技術ができることによって、コンピュータシミュレーションということが行われてきたわけです。1つは計量経済学のモデルの中に政治的な変数を入れてみると、領土拡大への欲求というものがGDPの成長とか、貿易関係とかそういうものとの関連でモデルをつくってみるというようなことも行われます。

 それからもうちょっと非線形の微分方程式の体系のモデルというようなことでいえば、システムダイナミクスというようなことも試みられてきましたし、またすべてを数学、数式に還元するのではなくて、ある種の、もしこういうことが起こったらこういうふうなことをするだろうというIF、THENというコンピュータプログラムの条件分岐をいろいろ入れて、その中で政策決定のシミュレーションをやるというようなことも試みられてきております。

 ただ、今まで申し上げましたのは、コンピュータプログラミングということでいいますと、どちらかというとすべて1つのルールに基づいて、プロシジュアルに書いていくというような形でありまして、あまり本日のこのセミナーで展開されるようなマルチエージェントのモデルというふうなわけではありません。ここで今までのものはどちらかというと世界全体の経済システムはこうなっていると、だからその経済システムと軍事システムというのを、何本かの方程式であらわしてみましょうというような形のモデルだったわけですが、1970年ごろから、ある種今、私どもがマルチエージェント・シミュレーションといっているようなものの萌芽、先駆けのようなものが試みられてきました。1つはここで詳しくは申し上げませんけれども、ウエマート・ミハルガーという、もともとミシガンにいた人たちがつくったモデルでありまして、このモデルはきょうご紹介する西洋均衡モデルの原型であります。世界が98の国家から成っていて、そのそれぞれの国家がみずからの行動決定ルールに基づいて、それぞれいろいろ行動すると。その結果、そのシステムとしてどういうことが起こるかというようなことです。

 それから2番目のアクセルロッドの囚人のジレンマ・トーナメントというのは、これも詳しくは申し上げませんけれども、ロバート・アクセルロッドという政治を研究していた先生が、ゲームの理論でいうところの囚人のジレンマというゲームに対して、多くの可能な囚人のジレンマに勝つと思われるプログラムを、世界じゅうから公募いたしまして、このゲーム、このプログラムでやれば一番得点が上がるぞという、そういういいプログラムを出してくれというふうに言って、それで何十ものプログラムの間でトーナメントをさせたということがあります。これはその後のさまざまな研究分野に広がっていったモデルでありますけれども、国際政治においても1つの以後の研究の指針を示すようなモデルでありました。

 ただ、どうもこのマルチエージェント型のシミュレーションを国際政治で行うということは、それほどその後1980年代に入ってから普及したというわけではございませんでした。それはなぜかというと、ここに挙げたことなんですけれども、やっぱり1970年代から80年代といいますと、プログラミングの環境としてFORTRANとか、それからその後にだんだんCとかという言語が出てきますけれども、2番目に書きましたけれども、ユーザーインタフェースという意味でいって、コンピュータの言語のプロでない人にとってみるとなかなか使いにくいということがあります。それからそもそもやはり複雑なシミュレーションをやろうとしますと、相当な能力が必要で、メーンフレームのコンピュータのかなりの時間を費やすというようなことになりますと、非常に複雑なマルチエージェント・プログラミングを何回も何回も繰り返していくことが難しいということですね。それから先ほど申し上げました2番目のユーザーインタフェースの問題もありますし、それからプログラミングの言語といっても、なかなかマルチエージェントを容易に使えるタイプの言語というものがあまりなかったということであります。その結果、1回やっても、その後似たようなことを何回も何回も繰り返して追試をするということは、非常に困難であったということであります。

 この問題点は、最近著しく改善してきております。私どもは構造計画研究所とご一緒に勉強させていただいた背景にも、そういう事態の変化ということがあると思います。個人レベルで使えるPCですら相当な高速化、小型化が進んでおりますし、それからユーザーインタフェースの面でも、いつも数字ばかり眺めていなくて、それなりのグラフィックス、グラフ、そういうものを見ながら考えるということができるような事態になっております。そしてこのマルチエージェント・シミュレーション用のシミュレータとかライブラリーとして、MITを中心として開始されたSTARLOGOとか、それからサンタフェ研究所によって開発されたSWARMとか、そういうようなものも出てきます。そして私どもにとってやはり一番うれしいのは、今回ABSという形で相当使い勝手といいましょうか、ユーザーフレンドリーな環境が整ってきたということであります。

 やはり私どものような社会科学者というのは、コンピュータの専門家ではございませんから、一から全部自分でCを使ってつくりなさいといわれても、なかなかうまくいかない。特に私どもが関心があるのは、モデルの最も根本としてのロジックに関心があるわけで、そのコンピュータを回していった結果、どうやってグラフにするかとか、どうやって絵をかくかとかということは、私どもの関心からすれば二義的なことでありまして、そこのところに時間をとられていたのでは我々の研究はできないということであります。その辺のグラフィックスとかグラフの整備、そしてプログラムといっても根本的なロジック、自分たちがやりたいという根本的なロジックのところに焦点を当ててくれるような、そういうプログラミングの環境がつくられるということが非常に重要なことでありまして、その面でいって、今回使わせていただいているエージェント・ベースド・シミュレータは、1つの要件を満たすプログラムになってきているということがいえると思います。

 私どもから見たこのエージェント・ベースド・シミュレータ、これはまだ仮の名前だそうですけれども、これの利用とするとどんなところが特徴があるかといいますと、今、言ったことのかなり繰り返しでありますけれども、基本的なロジックを書くプログラムが、ビジュアルベーシックのような文法でありまして、非常になじみやすいということがあります。それから2番目に、シミュレーションの本質的な部分以外の技術的な設定というものが、あらかじめ容易にできるようになっている、あらかじめ用意されたツールがありますので、私どもはそのプログラミングをするときの本質的なところにだけ神経を集中することができるということです。それから最後に、また繰り返しですけれど、多様なユーザーインタフェースがあって、シミュレーションの解釈というものが容易になるということがいえると思います。

 このABSを使ってどんなシミュレーションができるかということについて、これは若干余談、わき道なんですけれども、幾つか可能性があるということだけ少し申し上げておきたいんですけれども、通常のABSのモデルは、これは非同期型というふうにいっていいかどうかわかりませんけれども、オーソドックスな利用方法で、最もマルチエージェントらしいこういうののつくり方だと思います。基本的に各エージェントの、これはアクターと書いてありますけれど、エージェントといえばいいと思いますが、エージェントの意思決定とか行動のタイミングというのは、大体同時に行われているというふうに思っていい。この同時に行われるということ自体は、ABSの環境の中に組み込まれているわけで、システムの構築者はエージェントの行動ルールだけをつくり込めばいいということでありす。

 ただ、このようなオーソドックスな方法のみがABSでできるわけではなくて、次に同期型とここに書きましたけれども、もう少しエージェント同士の行動の順番というものをコーディネートするということも必要な場合がございます。特に国際政治等の場合ですと、それぞれのエージェントが、それぞれ独自の判断で行動しているといっても、それで相互作用するわけですけれども、国際政治などの場合ですと時にAというエージェントの行動に対して、それがあって初めてBというエージェントの行動が起こるというような順番というのが、少なくともローカルには設定されているということがかなりあります。そのためにはやはりある程度同期ルールというものを組み込むことで、各エージェントの意思決定とか行動のタイミングを明確に制御していくことが必要になる、そういうことがあります。

 以上で大体、国際政治学におけるシミュレーションの発展と、マルチエージェントのタイプのシミュレーションを使うということを考えて申し上げてきたわけですけれども、次に具体例として、ここで勢力均衡モデルと、六角形モデルというふうに書いてありますけれども、このモデルについて若干ご説明を申し上げて、どういうふうに使うことがあり得るのかということをご紹介したいというふうに思います。これはどういうモデルかというと、国際政治の勉強をしておりますと原理といいましょうか、非常に根本問題としてあるのが、一体世界というのはどういうときに平和になるんだろうかと、こういう問題であります。人類の歴史を見ていると、もう、戦争の歴史であるといって過言でないほど戦争があるわけですが、どうやったら戦争がなくなるだろうかということが、やはり一番の大きな問題だったんです。これに対する回答の仕方はいろいろありまして、1つはそもそも人間性を変えなきゃ戦争はなくならないんだという見方もあります。それからもう1つのタイプは、やはり世界政府をつくらなければいけない、国々がばらばらに分かれているから戦争をするんだと。だから世界連合とか世界連邦とかというものをつくらなきゃいけないんだというタイプです。それから別のタイプの考え方として見ますと、やっぱり権威主義的な国同士が、全体主義国家があるから戦争が起こるというようなこと。そうすると全体主義国家をなくして、みんな民主主義的な国家にしなきゃいけないというような考え方です。

 このような考え方に対して、一番リアルなといいましょうか、現実主義、あるいは冷酷な国際政治の分析者は、いや、そういうのはみんな無理だと。やっぱり国家というのは、基本的にはエゴイスティックで、自己利害中心的で、自分が利益を獲得できると思ったら、あまり道議だとか理想だとかということにかかわらず、場合によっては戦争に訴えてでも相手をやっつけるんだと、そういうものが国際政治なんだというような、そういう考え方が強くあります。

 ここで、このモデルで考えているのは、今、申し上げましたようないわば冷酷無比な現実主義的な国際政治観にのっとって、世界をもしつくったら何が起こるかと。本当に冷酷無比で、これが現実主義だと言っている人たち、言っているとおりのような世界をつくってみたらどうなるか。そこで果たして、そういう場合であったら、本当に戦争はなくならないのか、あるいは戦争、ある種国際システムの中で安定条件というものが生まれないのかというようなことが、1つのテーマとしてあるわけであります。これは両面の問題がありまして、1つはそういう現実主義的な国際政治観においてであっても、ある程度の平和を達成することができるかもしれない、希望の面と、それからもう1つは、やっぱり現実主義的な国際政治観というのは、やっぱり国際政治の一面をあらわしているにすぎなくて、やっぱりそうでない部分というのはあるんじゃないかという、そういうモデルの限界を示すというようなことにも使えるんじゃないかというようなところが、こういうモデルをつくり始めた動機であります。

 ここでつくり上げた世界というのはどういうのかというと、ここに六角形と書いていますけれども、クモの巣みたいな、ちっちゃい国が98あったとして、それぞれが国だというふうに想定したらどういうふうになるかということなんですが、その98から成る世界なんですけれども、それぞれの国はどういうことを考えているかというと、みんな自分の利益だけを考えている。世界のためとか何とかは考えない。現実主義者が言う利己主義的な国家であります。この国家はすきがあれば相手の領土をとってしまう。相手が弱いと見れば戦争をしかけて、戦争に勝てば相手の領土をとると、そういうような国家です。戦争をしかけられたら負けないように最善を尽くして、自分が弱いと思えば同盟をつくるというわけです。ですからそれぞれのエージェントについては、どういうことを考えるかというと、自分がどこかを攻めると思ったらどこを攻めるということを決める。攻められるとなったら、今度はどうやって守るかということを考える。その後、戦争してみるというようなことですね。戦争が終わって勝ったほうが負けた側の領土をとるというような、そういう形の決定サイクルが繰り返されます。

 例えばこれ、これは98ではなくて、こんな単純化した、もうちょっとちっちゃい絵ですけれども、この64個ですか、32個ですけれども、この中からプログラムとして見ると、乱数を振って、力の強い順に頻度を与えるような形で乱数を振って、どこかの国が戦争をするというふうに決めます。これ、イニシエーターの決定というフェーズですけれども、この44番はこれで戦争するぞというふうに。そうすると44番は何をするかというと、自分の周りを見回して、どこが弱い国かと、どこを攻めたら勝てそうだと。その弱い国がターゲットでありまして、42番ということになります。そうすると42番は自分が戦争をしかけられそうだというとになると、このままでは負けちゃう。負けてしまうから、自分の味方になってくれるところを探す。42番がこれで、味方をしてくれるのは60番というふうになるんですね。

 そうすると今度は44番は相手側が強くなってしまいましたから、それではどうするかというので、こっちも同盟をつくってまた攻撃しようというので、今度は26番と40番に一緒になってこいつらをやっつけようというふうに言います。それで今度はその後、42番と60番の同盟のほうは、この44、26、40の同盟に対して、ではこれだけではまた負けちゃうというので、また同盟をつくるというと、28、14、10という形で同盟を形成する。こうやって同盟ができ上がるわけですが、でき上がったところでさらにすべての国の、これのそれぞれの国には自分のパワーというものが割り振られていて、そのパワーの合計によって同盟対同盟の戦力比が決まるわけですけれども、その戦力比でもって戦って戦争の結果が決まる。戦争の結果はもちろん戦力比に比例しますけれども、ある種の乱数が入っているから、強いほうが負けることもあるという、そういうものであります。これで戦争の勝敗が決まって、これは戦争をしかけたほうが負けだったというような形になります。

 それでここに幾つかパラメータと書いてありますけれども、今、言ったような冷酷無比な国家だけから成っていたとても、それぞれの国の行動には幾つかタイプの違いがあって、その違いというものとして、ここに例えば相手のパワーをどのくらい正確に評価できるかとか、それとか、最初に98の国から成っているときに、最初に軍事力の分布を割り振るんですけれども、そのときにどのくらい不平等にするかとか、それとかあとは意思決定をするときに、どのくらいリスクテーキングなアクターにするか、あるいはどのくらいリスク回避するようにするかというようなことですね。

 ここでリスク愛好・回避ルールというので、リスクテーキングなのは第6フェーズを省略と書いてありますけれど、第6フェーズというのは、ここのところで第5フェーズでターゲット最終決定したところで、この後、最終的な同盟ができたにも関わらず、とにかく攻めちゃうというふうに言うか、それとも相手の最終的な同盟形成を見て、そこで戦争をやめるというふうにするか、そういうオプションを入れるかどうかというような、そういうところがこのリスク愛好とか、回避の違いであります。

 それから評価誤差更新ルールというのが一番下に書いてありますけれども、これは相手のパワーを評価するときに少しずつ誤差があるんですけれども、その誤差を毎回誤差が、誤差自体が変わるというふうにするか、それとも相手を過小評価すると決めた国はもうずっと過小評価するのかというような、そういうところであります。

 というようなこういうモデルなんですけれども、そこでこれでもって実際にやってみるとどんなふうになるかというのをちょっと実例をごらんにいれたいと思うんですが、これがABSのインタフェースですけれども、ここでシミュレーションを始めるわけですけれども、きょうは実際にここでシミュレーションをやるというよりは、先日やったもののログファイルがこのABSはとれますので、そのログファイルに従って、これを再生してみるというような形でやってみたいと思います。

 ABSはいろんなグラフがかけるんですけれども、きょうは全体の世界というのの変化というのを見ていただくという意味で、これは98からなる、六角形を実際は丸でかいていますけれど、六角形としてつながっている国が、実際にどう動いていくかということであります。

 それでは始まりました。今、98カ国から成っているんですけれども、これで今、赤のほうがついて、次から次へとさっき言ったそれぞれのフェーズがあって、赤がつくごとにイニシエーターというか、戦争を始める国があって、その周りにいろいろな反応が起きて、それで1フェーズ、1ターン終わるということで、赤がつくごとに戦争が行われるなり、あるいは戦争をあきらめるなりということが、次から次へとあって、戦争が行われますと、負けた側の領土が割譲されて、勝った側のほうにくっついていく。その結果、今のところですとまだ最初に赤になるところを見ていただきますと、1つだけが赤になっている絵が多いんですけれども、反応するときのパターンとか2つ色が一緒にくっついたりするのがありますけれど、これはもう1つの国が2つになっている、領土をふやしたということであります。

 ここで行っているようなシミュレーションは一体現実と何の関係があるのかというと、どういう歴史的な事象と結びつくかというと、世界史の歴史を見てみますと、結構最初いっぱい国があって、それがだんだん統一されていくというプロセスというのが、いろんなところで起きているんですね。例えば中国の古代の春秋戦国時代というのがありますけれども、これは春秋時代の初めには400とか500ぐらいの国があって、それが戦争を繰り返していって、だんだんそれぞれが大きくなって。大きくなっていった結果、戦国時代というふうにりますと、戦国の七雄とかといわれる国が生まれるわけですね。この戦国の七雄、7つの国の間の合従連衡というものがしばらく続いて、最終的に紀元前の3世紀から2世紀にかけて秦の始皇帝が中国を統一するというプロセスになります。

 同じような例は古代のギリシャでもあって、ギリシャでは最終的にというか、最後のころにアテネとかスパルタとかコリントという、かなり大きな国が出てきて、その間でペロポネソス戦争とかああいう戦争が戦われますけれども、そのもっと前は、やっぱり500とか600のポリスがあって、それが戦争を繰り返しているんですね。それが合従連衡を繰り返して、アテネとスパルタの両陣営の大同盟の戦いとしてペロポネソス戦争になって、その後、決着がつかなくてまたばらばらになって、最後にはアレキサンダー大王がヘレニズム世界を統一するというので1つになる。アレキサンダー大王の帝国ができた後、また地中海の世界というのは、かなりばらばらになって、それをまたローマが1つにするということが起きます。

 似たようなことは日本でも鎌倉幕府から室町幕府になって、戦国時代というのが生まれるわけですよね。戦国時代が生まれて、各国の大名がさまざまに地方に割拠するわけですけれども、割拠している中で戦争を繰り返してだんだん大きくなっていくというわけです。最後にはこれは織田信長や豊臣秀吉の統一、あるいはそこからぎりぎりで分かれて、天下分け目の関ヶ原で徳川幕府になって1つになるわけですね。そういうプロセスを、ここであらわしている1つひとつのヘクスといいましょうか、六角形が今、これはかなりのサイズになってきているわけですけれども、さっき言った単純な1つの国が周りを見渡して、弱ければそこに戦争をしかけるぞと。ターゲットのほうは戦争をしかけられたら困るから同盟を結ぶという反応をして、それで戦争をやって、勝てば領土をとるし負ければ領土をとられるという話です。

 これは大体ごらんになっていただければおわかりのように、ロジックとしてみると戦争をやって領土をとるというロジックしかないんですから、最終的には1つになるというのが当たり前といえば当たり前ですね。ですからこのモデルは勢力均衡モデルといっていますけれども、実際は世界帝国、帝国形成のモデルだというふうにいってもいいと思います。ただ、これはごらんになっていておわかりになると思うんですけれども、次から次へとどこかがどんどん圧倒的に強くなってしまうというのでもないような感じが見てとれると思います。いろいろ繰り返しが起こって、領土をふやしたり減らしたりという、行ったり来たりということが起こっていると。

 これは今、どのくらいですか。

【山本】

 127ターン、半分ぐらいです。

【田中】

 もうしばらくこれを見ていただけると、どういうふうに動いていくかということがおわかりになると思います。

 それでちょっと、あちらをごらんになっていただく間に、もう少し今、ここでの関心のことを少し述べたいと思うんですけれども、これは今の1つの例なんですけれども、実際は先ほど申し上げましたように、パワー評価を正確に行うかとか行わないかとかというようなこととか、パワーの誤認とかというのがありまして、こういうパラメータを変えることによって、実際に世界帝国、最終的に世界帝国ができるにしても、いつできるかということに差が出てくるんですね。早くできてしまう場合と、それからなかなかできないということがある。なかなかできないということは、1つの理由は戦争を始めようと思っても、戦争に勝てないと思ってやめちゃうということが非常にふえるということです。言ってみるとそれはある種の安定といいましょうか、平和が続いているということなんです。ですから研究の関心として見ると、できるだけ世界帝国ができないようなパラメータの組み合わせはどんなのかというようなのが、この研究の1つのおもしろいところです。

 例えばこの右側でグラフを見ていただきますと、1つのモデルでやっていきますと赤いのが国の数がだんだん減っていくパターンなんですけれども、丸印がついているところを見ていただきますと、だんだん国の数が減らなくなっちゃうんですね。そうするとこの中ではあまり勝敗がはっきりしない。どちらかというとここで勢力均衡で国家が共存しているというような状態が再現されるわけであります。

 それに対して、このグラフを見ていただきますと、これはどんどんどんどん減っていって、最後に1つになっちゃうんですね。どうも今、これは向かって左側の絵はだいぶ終わりのころになってきて、春秋戦国時代のかつての中国でいうと、戦国の七雄ぐらいになったんでしょうか、7つぐらいの大きな国が戦っているということであります。

 この7つぐらいのところで、さっきのこれですね、これが7つ、5〜7ぐらいでずっと変わらないということなんですけれども、ですからもし左側のようなところが勝ったり負けたり、あるいは戦争ができなかったりという形で推移していきますと、この右側のグラフのような形になるんですけれども、どうも今、見ていただきますと、真ん中辺のところにかなり大きな国ができてきているということがおわかりになると思います。

 ただ、それでも最後のころになって、単調にどこかの国だけがどんどん大きくなっているというわけでもないということは、今、ごらんになっていただいたのでおわかりになると思います。これでだいぶ右上のほうが大きな国ができました。

 やっぱり最後の大決戦のようなところで、勝ったり負けたりというのが最後あたりで結構やっているのが、これでおわかりになると思います。

 今、これで何カ国ですか、4カ国ぐらいで行ったり来たりしているわけですね。

 これを見ていただきますと、やっぱり最後、後で5カ国とか6カ国になっても、なかなか最後の天下統一というのには結構時間がかかるということがおわかりになっていただけると思います。これで今、3カ国で、2カ国になる。まだ3カ国ある。これで今、緑色になっているのがちょっと挽回したわけですが、次にこれでやられてしまって、ここで3カ国になって、1つの領地になって、これでおしまいと。これで天下統一ということであります。

 ですから私どもの関心からすると、この天下統一に至るまでのそのプロセスに、天下統一に関心があるというよりは、どうやってこの天下統一が延びるかというところが実は関心がありまして、いろいろやってみますとお互いの国のパワーを正確に認識できる場合とできない場合、比較的に正確に認識できるパターンのときのほうが、この勢力均衡による国家の共存ということがあって、それに対してこちらのあまり認識できないほうが世界帝国の誕生が早くなるというようなことがあるようであります。

 それから先ほど国家のリスクテーキングな国家が多い場合と、あるいはリスクアバーシブといいましょうか、リスクを回避するのが多いというのでいいますと、ここのところに国家の数の経過のグラフが出ていますけれども、リスク回避型のこの例ですと234ターン、リスク愛好型だと196というような形で、やっぱりリスクを回避するタイプの多い場合のほうが、平和につながるんじゃないかというようなことがここで示されています。

 今、言ったようなことを簡単にここでまとめてみたわけですけれども、安定度が高くなるのは評価誤差が小さいほうでリスク愛好型よりも回避型のほうがいいと。それからあとは評価誤差が変わるというようなことからいうと、評価誤差については一貫しているほうが安定につながる。つまり過大評価するにしても過小評価するにしても一貫しているほうがつながるというようなことがいえるというわけであります。

 というわけでこのモデル自身も、実験が完全に、すべての可能性を網羅するような実験をやったわけでもありませんけれども、今、ごらんにいれたことは結局このABSというようなものを使うことによって、やや単純ではありますけれども、世界史の中で行われている国際政治のダイナミクスの一部を、ややゲーム的な感じで再現してみることができるということであります。

 もちろんこのモデル自身は改良すべき点がまだあって、例えば今の場合は国家はどんどん成長していくだけで領土をとるだけなんですが、大帝国が崩壊するということは、ソ連が解体するとか、ユーゴスラビアが解体するところを見て明らかでありますから、どうやって国家が分裂するパターンを入れるかとか、それとか今のモデルですとすべての国家は大体経済成長が均一で同じぐらいの速度で発展しているんですが、18世紀、19世紀、20世紀の歴史を見れば、国家が均等に発展するということは、ややまれなことでありまして、ある国は高成長し、ある国は高成長しないということがあります。こういうようなモデルを入れたらどうなるかとか、あるいはヒットラーのような存在が出てくる。現状打破を大軍事力を使って図るという国と、それからもともと現状肯定的な国家というものがあるというものを入れたらどうなるかというようなことが、改良の面としてあり得るというふうに思っております。いずれにしてもきょうの私のご報告は、国際政治の分野で戦争とか平和というようなことを考える1つの助けとして見ても、このABSのモデル、プログラムシステムを使うということは、かなり便利だしおもしろいということをお示ししたということであります。

 以上で私からのご報告を終わらせていただきまして、ご質問等があればと思います。

【司会】

 田中先生、どうもありがとうございました。それではあと10分ほど時間がございますので、どなたかご質問があられる方がいらっしゃいましたら、お手をお挙げくださいませ。田中先生の今のご発表に対して、どなたでも結構ですので、お手を挙げていただければと思います。では、そちらの方、よろしくお願いします。今、マイクが行きますので。

【川村】

 大阪ガスの川村と申します。先ほどご講演いただいた内容は国家の間の競争だったんですけれども、こういったモデルを企業間の競争とかに適用されている事例というのはございますでしょうか。また、そういうことは可能なんでしょうか。

【田中】

 私、専門が国際政治なもので、企業間でこれと同じようなモデルの適用をした例があるかどうかは私は知りません。ただ、ですから問題は今、ここでは戦争というような形にして、領土のとり合いということをやっておりますけれども、これは次のご報告の高橋先生のほうがご専門ですから、もし高橋先生のほうからコメントをいただければ、その後、こんなものはどうやって使うことができるかということに対して、ご感触は伺えるかと思いますけれど、例えばマーケットシェアとか、地理的なマーケットの占有というようなことが、ある程度このモデルという戦争とのアナロジーとして、適用可能であれば似たようなモデルを開発するということは、全く不可能というわけではないんじゃないかというふうに私は思っております。ただこれは全く専門外からの人間の発言ですから、無責任な発言であります。

【川村】

 ありがとうございました。

【司会】

 ほかにどなたかご質問のあられる方はいらっしゃいませんでしょうか。ではご質問が出ませんようですので、田中先生の発表はこれで終わりとさせていただきます。田中先生、どうもありがとうございました。

 

 


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